大阪地方裁判所 昭和43年(行ウ)871号 判決 1969年7月03日
京都市下京区仏光寺通油小路西入喜吉町一五七ノ一
原告
京極竜吉
右訴訟代理人弁護士
杉島勇
同
杉島元
京都市下京区間ノ町五条下ル
被告
下京税務署長
村野利夫
大阪市東区大手前之町
被告
大阪国税局長
佐藤吉男
右両名指定代理人検事
鎌田泰輝
同
高木国博
同
橋間他家男
同
和泉勉
同
辻倉幸三
右当事者間の所得税不当課税取消請求事件について、当裁判所はつぎのとおり判決する。
主文
原告の請求は、いずれもこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
(当事者双方の申立て)
一、原告
(一) 被告下京税務署長が、昭和四二年八月二三日付で、原告の昭和四一年の所得税について、その所得金額を金三、五一〇、八三四円としてなした更正処分のうち、金二、九七三、三三四円を超える部分は、これを取り消す。
(二) 被告大阪国税局長が、昭和四三年八月二〇日付でなした、前項の処分に関する原告の審査請求を棄却する旨の裁決は、これを取り消す。
(三) 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決。
二、被告ら
主文と同旨の判決。
(当事者方分の主張)
第一原告の請求原因
一、原告は、その昭和四一年の所得税について、給与所得金二、八六二、五〇〇円、配当所得金一一〇、八三四円、所得金額合計金二、九七三、三三四円として確定申告したのに対し、被告下京税務署長(以下単に被告署長という。)より、昭和四二年八月二三日付で、配当所得金五三七、五〇〇円を加算し、所得金額を合計金三、五一〇、八三四円とする更正処分を受けたので、同年九月一三日被告署長に対し異議申立てをしたところ、同年一〇月三一日棄却され、更に同年一一月二五日被告大阪国税局長(以下単に被告局長という。)に対し審査請求をしたところ、昭和四三年八月二〇日これを棄却する旨の裁決がなされ、同年九月一日その旨の通知を受けた。
二、しかし、被告署長が原告の配当所得に金五三七、五〇〇円を加算したのは違法であるから、ここに、所得金額を金三、五一〇、八三四円とした本件更正処分のうち、金二、九七三、三三四円を超える部分、および右処分に関する原告の審査請求を棄却した本件裁決の取消しを求める。
第二被告の答弁および主張
一、請求原因一の事実はすべて認めるが、同二は争う。
二、原告は、京都市下京区烏丸通高辻上ルに本店を有する株式会社丸通服商店(以下訴外会社という。)の代表取締役であるが、訴外会社では、昭和四一年九月一日に開催された取締役会において、利益準備金のうち金五、〇〇〇、〇〇〇円を株式は発行しない条件で資本に組み入れる旨の決議がなされ、同月五日右金額を増資した後の資本の額を金二五、〇〇〇、〇〇〇円として、京都地方法務局に登記がなされた。そこで、被告署長は、訴外会社が資本に組み入れた利益準備金五、〇〇〇、〇〇〇円のうち、原告が同月一日現在で所有していた同社の株式四三、〇〇〇株に対応する部分の金額五三七、五〇〇円を所得税法二五条二項二号に規定する利益の配当とみなして、本件更正処分をしたのである。
三、したがつて、本件更正処分には何らの違法がないから、原告の本訴請求はすべて失当である。
第三被告の主張に対する原告の応答
一、被告の主張二の事実はすべて認める。
二、しかし、訴外会社は、株式を発行しない条件で利益準備金を資本に組み入れたのであつて、これにより原告は株式は勿論何らの金銭的利益も受けていないから、金五三七、五〇〇円は原告の所得になり得ない。
理由
一、原告の請求原因一の事実は、すべて当事者間に争いがない。
二、原告の被告署長に対する請求について
被告の主張二の事実については、いずれも当事者間に争いがない。
ところで、所得税法は、本来の配当所得の外に、二五条において、その性質上配当所得とみなす金額について規定しているのであるが、同条二項はつぎのように規定している。即ち、「法人につき次の各号に掲げる事実が生じたときは、この法律の規定の適用については、当該各号に掲げる金額のうち当該法人の株主等が当該各号に掲げる事実の発生の時において有する株式(―中略―)に対応する部分の金額は、利益の配当又は剰余金の分配の額とみなし、かつ、当該事実の発生の時において当該法人からその株主等に対し当該金額の交付がなされたものとみなす。」ものとされ、二号として、「法人税法第二条第十八号に規定する利益積立金額の資本又は出資への組入れ、資本又は出資に組み入れた当該利益積立金額」と規定している。そして、右規定の趣旨に照らすと、同法二五条二項二号の場合においては、当該法人が株式を発行する場合であると発行しない場合であるとを問わず、同条二項のみなし配当の規定の適用があるものと解するのが相当である。そうすると本件の場合においては、正に同法二五条二項二号の適用を受けることになるから、訴外会社が資本に組み入れた利益準備金五、〇〇〇、〇〇〇円のうち、当時原告が所有していた株式に対応する部分の金額五三七、五〇〇円は、所得税法の適用上訴外会社より原告に対し利益の配当があつたものと擬制されることとなる。
したがつて、右金五三七、五〇〇円を原告の配当所得に加算した上なされた本件更正処分には何らの違法がない。
三、原告の被告局長に対する請求について
原告は、本件更正処分の取消しを請求する外に、被告局長がなした本件裁決の取消しも請求するのであるが、裁決の取消理由として主張するところは、本件更生処分についての違法であつて、本件裁決に固有の違法は全く主張しない。ところが、行政事件訴訟法は、一〇条二項において、「処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には、裁決の取消しの訴えにおいては、処分の違法を理由として取消しを求めることができない。」旨規定しているから、原告の被告局長に対する請求は、主張自体理由がないこととなり、失当である。
四、よつて、原告の本訴請求はすべて理由がないから失当として棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 喜多村治雄)